静岡県の大型観光キャンペーンが始まった10月3日、折よく大井川鉄道のSL列車に250万人目の乗客が訪れた。
幸運を射止めたのは横浜の若いOLであったが、SLの旅は今や幼児から老人まで幅広く親しまれ、人気が上昇している。
沿線人口5万人ほどの奥大井に全国から200余万人が訪れたので、地元の振興にも何がしかお役に立っているものと思う。
このように今や人気者のSL君であるが20年ほど前、これを始める前にはいろいろ反対が多く、せっかく鉄道電化を進めているのに時代逆行だなどきついご意見もあった。
さらに今から50年前にさかのぼると鉄道好きの若者−−私は鉄道狂と異端視され肩身の狭い思いをしていた。今や鉄道友の会の役員でと言うと結構なご趣味でと言われるが、この間に50年の歳月を費やしたのである。
かたやイギリスでは50年前、既に鉄道好きは立派な紳士の趣味として認知されていた。先年台湾でも日本に似せてSLを走らせたが一向に人気は無く、台湾国鉄の幹部氏は台湾の人はまだ金もうけばかり追う人が多く、文化的にも遅れていると嘆いていた。
今や欧米では小さな観光鉄道や小さな動く鉄道博物館が人気を博しつつあり、日本でも21世紀にはそうなるのであろうが、なかなか本当には分かってもらえない。
社会的に見ても軍国日本の転換、宿敵米ソの解消等信じ難いことが起きているが、これらも含め社会の進化に伴う歴史的必然であり、歴史の流れは人力をもって止めることはできない。
今や日本人の意識もモノ、カネ一辺倒から離れ、自らの文化、自分たちの歩みの跡を大切にする心が芽生えつつあり、SL列車の乗客200万人余の人気も単なる物珍しさだけでなく、このような市民意識の進化が根底にあるものと思われる。
(静岡新聞1992年11月3日夕刊一面「窓辺」より)
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