スイスは先進国

白井 昭

 私のスイス歴は二十余年に過ぎないがそれでも教えられたことは多い。
 スイスは観光国である。しかしそれはアルプスの風光のみで成り立っているのではなく、国民全体に本物のホスピタリティーが身に付いており、日本はまだ付け焼き刃だと思わせる。プロトコル(外交儀礼)もスマートである。ある時、大鉄がスイス側の写真の使用許可を申し入れた。
 日本だと右許可するとなるところを、歴史ある大鉄に使われることは当鉄道の最も名誉とするところとのご返事で、作法通りとはいえやはり感心させられる。
 ただし一歩誤って無許可で宣そうとなるとこれまた大変なことになる。
 スイスは狭い国土にクモの巣のごとく鉄道、トロリーバス、リフトをはりめぐらしているが、今計画しているアルプストンネルは外国のマイカーを通せんぼしてスイスの鉄道で車を運ぼうという、なかなかしたたかな方程式を描いている。
 もっともチューリッヒの街も静岡で言うと駅前−県庁の間はマイカー禁止で、人と乳母車、ワンちゃんと市内電車の天下になっている。これをトランジットモールといい、毎日が歩行者天国プラス市内電車の世界でつくづく人間尊重の世界を感じるのである。
 駅前の国道上をトラックが走る国よりは先進国なのである。
 大鉄の姉妹鉄道の生まれた明治25年は、統治では単線の陸蒸気の東海道鉄道が開通したばかりで、その時すでに25%という今の自動車も登れない急勾配に挑戦し、登山旅客鉄道を開業しているのだから大変な先進国であった。
 その一方では今でも古いものをたいせつにし、アルプスの白雪を映す美しい湖には外輪式の蒸気船がゆるやかに走っている。
 日本のごときニセモノではなくかつて英国貴族やロシアの皇族が乗った本物であり、ワインを飲みつつクルーズする時、百年前の貴族の心をしのぶことができるのである。

(静岡新聞1992年12月29日夕刊一面「窓辺」より)


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