物事には必ず穴場というものがあり、いつも混み合う新幹線でもすいているときがある。
私ども旅先案内人からするとビジネスは別としてシーズンピークに旅をするのは賢くないやり方である。大鉄のSLも席が取りにくいというが、それは夏秋の数日のみのはなしである。
冬はSL列車は休みか−実は冬も毎土はすべて走っており展望車、お座敷列車も連結される。今や珍しいスチームの柔らかな暖房、窓辺に流れる白い煙、SLの旅の醍醐味は冬にある。
井川線のアプト式鉄道は暖房完備で冬も毎日走り、沿線に残る自然林は落葉して裸の大自然が迫り、ゆっくり進む小さな列車、大きな自然からはいかに人間は小さいものであるかが身にしみる。
この寒中にといっても欧州なら張るの気候であり、冬の北陸は雪であるが奥大井はほとんど毎日が晴天、雪はまれで梅の花が美しい。
世の中にはさすが通の人がいて、おしのび冬の旅を楽しむ有名人もあるが、ミニ列車の車内はすいていてまさに王様の気分である。
忘れられている冬のSL列車、アプト式鉄道はまことにもったいない存在で日帰りも、泊まりもユニークで楽しい「おすすめコース」が作られている。
井川ダムの展示館は冬も開いているし、寸又峡や接阻の湯は流れ放し、名物猪鍋(いのししなべ)で暖まれば申し分ない気分となる。
しかし冬のダイヤは本数が少ないので、お出かけ前に鉄道会社へ「おすすめコース」」なるものを聞くこと、これもひとつの旅のコツである。そして切符は奥大井フリーキップを買うと大鉄全線フリー約4割引となる。
このようなことは奥大井だけでなく、日本各地についても散在しており静かな冬の旅にこそ本当の旅の味がある。
忙中閑を求め、人を誘ってひと味違う早春賦の旅に出ることをおすすめしたい。
(静岡新聞1993年1月19日夕刊一面「窓辺」より)