阿里山の旅

白井 昭

 台湾中部の険しい山岳地帯をぬって日本の鉄道よりはるかに高所まで阿里山森林鉄道が走っている。かつてヒマラヤ、アンデスと共に世界三大山岳鉄道と称された秘境の鉄道である。
 この線の起点は海抜ゼロメートル近い嘉義でバナナ、パパイアの実る熱帯であるが、走るにつれヤシ、楠(くすのき)に変わり数回のスイッチバックを経て海抜二千メートルを超え、檜(ひのき)や針葉樹の世界となる。
 居ながらにして熱帯から暖帯、温帯への移り変わりを見られるのが売り物で、終点近くには樹齢三千年の御神木があり、この鉄道のシンボルになっている。
 しかし、この珍しい鉄道は人気が高くなかなか席が取れないのが難点である。
 この壮大な森林鉄道は、実は明治末に日本人により難航の末に完成したもので、昨年開業80周年を迎えて中華民国政府から美しい記念切符も発行された。
 その長い歴史から現地の人々の思い入れも深く多くのエピソードが残されている。
 明治39年、現地へ入った東大の河合綿太郎博士は阿里山の幽境に入り、明月が岩を照らす美しさに終夜不眠、その地を眠月と名付けた。
 いまも山頂付近に支線の眠月線が走り、河合博士の感動を今に伝えている。
 大鉄では姉妹鉄道の縁で毎年阿里山を訪れ、本年も3月2日出発で国営阿里山ホテル泊と新高山の日の出をくんだ旅を募集中である。
 春まだ浅い3月、現地は田植えの盛りで、夜店の美しさも格別、何よりも日本人に親近感が強いのが嬉(うれ)しい旅である。
 定番の阿里山ツアーはバスで登山してしまうので、何とかこの由緒ある森林鉄道で特色ある旅を楽しむようおすすめしたい。
 私どもはこの素晴らしい阿里山鉄道との交友が21世紀まで長く続くことを願っている。

(静岡新聞1993年1月26日夕刊一面「窓辺」より)


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